明治維新に多大な影響を与えた思想が陽明学である。
近江聖人といわれた中江藤樹に始まり、その弟子となった熊沢蕃山が教え、熊沢蕃山は徳川幕府から危険思想の持ち主とされ、岡山藩から追われ、最後はひっそりと関東の古河で最後を遂げたが、その思想は引き継がれ、幕末の思想家に多大な影響を与えた。その代表が横井小南であり、松下村塾を開いた吉田松陰もその影響を受け、幕末備中松山藩の改革を成し遂げた山田方谷もまた陽明学であった。
陽明学が嫌われたのは、学問としてよりもその行動性のためであろう。
思えば王陽明が教えた教え自体はなんら危険なものではない。人間が良知にしたがって生きることを教えたのである。しかし人がよいことと思うことが時としては権力者にとってはよいことでない場合もある。儒学の中でも朱子学はどちらかと言えば秩序を重んじる思想である。
熊沢蕃山は領主である池田光政公が役人を重用して政治を行うことに反対し、水魚の交わりとも言われた親密な関係が切れて、隠居するようになったと言われている。
東日本大震災に見舞われた日本の状況は、当時の状況に極めてよく似ている。
備前の大洪水のとき池田公は蕃山の意見を入れて民衆を救済した、しかし、晩年その家督を息子の綱政にゆずるに際して津田永忠など有能な家臣を重用したのである。これは大変よかった面もあったが、熊沢蕃山が心配した役人政治の弊害をもたらした。住民の生活のこと細かいことまで政治が介入して、民間の活力や文化活動が抑えられた。
政治の役割は何か?よき政治は必要であるが、それはあくまで民の幸福のためである。押し付けの善政は却ってマイナスをもたらす。
今の政治を見ると、当にそのような気がする。
未曾有の国難をどのように乗り切るか?不要な国の介入は国力をそぎ、復興を阻害する。
今こそ明確なビジョンを国民全体が共有して、国民全体が共通の意識と、共通の幸福を求めて生きるときであろう。
無益な論議はやめてほしい。
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